家の玄関先やお店の入口で見かけるたぬきの置物といえば、大抵の人は「ああ、あのたぬきね」と思い浮かべられますよね。縁起物といわれている滋賀の信楽焼たぬきだと知っている人もそれなりにいらっしゃるでしょう。では、あのたぬきにどんな意味があるのかとなるとどうでしょうか?
よく目にするけれど、よくは知らない信楽焼たぬき。なぜ縁起物といわれているのか?たぬきの出で立ちに意味はあるのか?いったい誰が作り始めたのか?気になることはいっぱいあります。
そこで今回は、なんとなく気になってしまう信楽焼たぬきを信楽焼の歴史とともに調査してみました。
滋賀の信楽焼たぬきが縁起物と言われる理由
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たぬきの置物には、商売繁盛や出世、ひいては金運、開運、招福といったご利益があるから縁起物といわれています。「たぬき」を「他、抜き」と書いて、たぬきには「他より抜きん出る」つまり「一番になる」というのがご利益の由来のようです。
ご利益は語呂合わせなんですね。
お店の入口に信楽焼たぬきが鎮座していることが多い理由は、招き猫と同じだということがわかりました。鎮座しているといえば、信楽陶苑たぬき村には日本でいちばん大きいという信楽焼たぬきの置物があるんですよ。
信楽町にはそれ以外にも多くの信楽たぬきがいます。
たぬきの習性が由来の縁起も
生きているたぬきは一夫一妻制で、一生を添い遂げるともいわれています。そのことから「夫婦円満」のご利益もあるそうなんですよ。
たぬきの出で立ちには意味があるの?
たぬきの出で立ちには「八相縁起」という8個の縁起が込められています。たぬきの笠・目・顔・おなか・通い帳・とっくり・金袋・しっぽに込められた「八相縁起」を詳しくみていきましょう。
「はっそうえんぎ」って読むんですって。
たぬきの笠
たぬきがかぶる笠には「予期しない災難から身を守る」という縁起が込められています。ヘルメット的な意味合いになるのでしょうか。
たぬきの目
たぬきのくりくりおめめは、しっかりと周りを見て確認することを表しています。「周りの状況を正確に判断する」という縁起なんですね。
たぬきの顔
たぬきの柔和な顔を見ているとなんだかほんわかしますよね。込められた縁起は「自分も含めたみんなを笑顔で明るくする」というものです。
たぬきのおなか
これぞ太っ腹という立派なおなかが表すのは「どんなときも落ち着き、思い切った決断をおこなう」という縁起なんだそうです。確かにドンと構えた貫禄を感じますよね。
たぬきの通い帳
たぬきが持っている通い帳は信頼の証。「周囲の人から信頼をよせていただく」という縁起です。
たぬきのとっくり
とっくりを漢字で書くと「徳利」。そこから「徳が身につく」つまり「自然と人が周りに集まるような優れた気品が身につく」という縁起なんです。
たぬきの金袋
その名の通り「金運がよくなる」という縁起です。あえて多く語りませんが、たくさんお金が詰まってそうですね。
たぬきのしっぽ
信楽焼たぬきの後ろ姿をじっくりと見る機会はなかなかないのでは?実は太くてしっかりしたしっぽがついています。このしっぽにあやかり「何事も終わりをしっかり」という縁起が込められています。
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信楽たぬきの日
毎年11月8日は信楽たぬきの日なんだそうです。この日は、愛宕山陶器神社で行われる神事「信楽焼たぬき八相縁起祈願祭」をはじめ、町をあげていろいろなイベントが行われています。神事の様子をご覧ください。
イベント内容は開催年によりさまざまです。詳しくは信楽町観光協会公式サイトの信楽たぬきの日でチェックしてくださいね!
信楽焼たぬきはオスだけなの?
信楽焼たぬきにはメスもいることをご存じでしょうか?いつごろからメスがいるのかは、残念ながらわかりませんでした。しかし、オスに混じってわりと多くのメスがいるということはわかっています。
体つきはオスのたぬきとほとんど同じメスのたぬき。そのフォルムゆえ、メスだと気づいていないことも多いのかもしれません。オスとメスの違いはどんなところなんでしょうか?
メスの信楽焼たぬきの特徴
- 金袋がなく、葉っぱで前を隠している
- 笠がないことが多い
- リボンをつけていたり、もっていたりする
よく見てみるとこのたぬきはメスだったのかということがありそうですね。
信楽焼たぬきの仲間たち
信楽焼=たぬきというイメージが強いのですが、たぬき以外の動物もいるんです。それらの動物と縁起について見ていきます。
信楽焼カエル
たぬき以外でよく見かけるのは親子ガエルです。カエルは「福、帰る」ということで縁起物とされています。信楽焼カエルにも「八相縁起」があるそうです。
カエルの口
カエルがエサをパクリと飲み込むように火の災いをパクリと飲みこみ「火災を防ぐ」という縁起が込められています。
カエルのおなか
カエルのおなかにはおへそがないので、カミナリさまに狙われない。つまり込められた縁起は「カミナリが落ちるのを防ぐ」なんです。
カエルの前足
しっかりと地面に前足をつくカエルのたたずまいから前足は「堂々としマナーをしっかりと守る」という縁起があるそうです。
カエルのたべもの
ハエや蚊などを食べて害虫駆除をしてくれることから「無病息災」の縁起が込められています。
カエルの後ろ足
カエルの力強い後ろ足からの見立てで、「力を蓄え、いざというときは迷わず跳躍前進」という縁起なんだそうです。
カエルの皮膚
カエルは環境に応じて体の色を変え、天敵から身を守るそうです。そこから「災厄から身を守る」という縁起が込められています。
カエルの冬眠
エサのない厳しい冬にこそ春に備えた力を蓄えるというところから、「芽が出ずつらい時こそ知識を蓄え明るい未来に備えよ」という縁起が生まれました。
カエルの子ども
信楽焼カエルは、子どもを背負っているものが多くあります。その姿から「親は子どもを守る責任をまっとうし、子どもは親に倣おう」という縁起が込められています。
信楽焼ふくろう
信楽焼にはふくろうもいます。ふくろうは「不苦労」や「福来郎」という字が当てられ、縁起物とされています。他にも猛禽類のフクロウは視力がとてもいいので、チャンスを見逃さないともいわれているそうです。
信楽焼の歴史
信楽焼は鎌倉時代から滋賀県甲賀市の信楽町で作られてきた陶器です。江戸時代は茶つぼを中心に作られていました。明治時代になると火鉢がメインで生産されます。その後、昭和の高度経済成長を経て、家庭での火鉢の需要が減ると、高級盆栽鉢や観葉鉢にシフトしていきました。
それぞれの時代に必要とされるものを臨機応変に作り続けていく柔軟さと適応能力の高さが信楽焼の強みと言えそうです。
▼NHK朝ドラ「スカーレット」はまさにこの信楽焼のお話なんですよ。詳しくはこちらの記事で!
信楽焼たぬきを作り始めた人
信楽焼でたぬきを最初に作ったと言われているのは、明治時代の陶芸家、藤原銕造(ふじわら てつぞう)さん。たぬきのモデルは、藤原銕造さんが見たという竹林の中で楽しそうに腹つづみを打ちながらおどるたぬきたちなんだそうです。その姿に感銘をうけた藤原銕造さんはたぬきをつくりはじめました。
もともと京都の清水焼の窯元に師事していた藤原銕造さん。修行を終えた後に信楽に移り住み、信楽焼の技術を使ってたぬきを完成させたそうです。
藤原銕造さんが明治時代に創業した工房「古狸菴(こりあん)」は、2023年6月現在、孫に当たる藤原康造(ふじわら こうぞう)さんが引き継いでおられます。藤原康造さんも信楽焼職人として新たな形のたぬきを制作。その作品は「古狸庵」のインスタグラムで紹介されているんです。
直売や工房見学、陶芸教室も行っておられます。興味をお持ちの方はインスタグラムをのぞいてみてはいかがでしょうか。
信楽焼たぬきが有名になった理由
「をさなき日 あつめしからになつかしも 信楽焼の狸をみれば」
昭和天皇が詠まれたこの句が報道され、全国的に有名になりました。
1951年の昭和天皇が信楽町に行幸されたときに、沿道に日の丸を持ったたくさんのたぬきがお迎えをしました。昭和天皇はこのたぬきのお出迎えがとてもお気に召されたようで、冒頭の句を詠まれたそうです。
まとめ
今回の記事をまとめました。
まとめ
- ご利益は商売繁盛、出世、金運、開運、招福、夫婦円満
- 八相縁起を表す出で立ちをしている
- 信楽焼たぬきはオスだけでなくメスもいる
- 信楽焼の縁起物はたぬきの他にカエルやふくろうもいる
- 信楽焼は鎌倉時代から続いている
- 初めて信楽焼たぬきを作ったといわれているのは藤原銕造さん
- 昭和天皇が詠まれた句が報道されたことがきっかけで全国的に有名になった
同じように見える信楽焼たぬきですが、それぞれに個性があります。町で信楽焼たぬきを見つけたときは、じっくり観察してみてください。新たな発見があるかもしれません。
散歩がてら信楽焼カエルや信楽焼ふくろうも探してみてください。みつけたらなんとなく嬉しい気持ちになっちゃいますよ!